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えどさんごくし

江戸三国志

吉川 英治

「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页

青空文庫

で……ござんすもの、どうしてお前さん、夜稼ぎなんか働いているひまがあるものじゃございません」

九兵衛はせせら笑って、

「それこそ弘法様が臍で茶をわかすだろう。なんでてめえや法達が悪事の足を洗っているものか。……だがお互い様のこった、そんな詮議立てはやめとして、時に、てめえ今夜はどこへ行ったんだ」

「あっしですか」

「そうよ」

九兵衛の眼ざしに、寺男の八助はまごついて、生酔の首を振りうごかしながら、

「このとおり、ちょっと馴染みの家へ、飲みに行った帰りなんで」

「ばかをいえ。法達の話じゃ、使いに行ったということじゃねえか」と、少し声をとがらせましたが、急に顔をやわらげて、幾らかの金を八助に握らせながら、

「こりゃ今度、おれが甲府へ来た手土産のかわりだよ、すくねえが納めておいてくれ」

「ご冗談でしょう、厚木の親分、こんなものを頂戴しちゃあ……」

「まあいいから取っておきねえ。ところで、というとおめえを見くびって、金で口を開かせるようだが、今夜の使い先は何処なのか、おれにだけ、ちょっと耳打ちをしてくれねえか」

「実は、その、江戸の親分のお使いでしてね」

「だからよ、そいつはおれにも分っているのさ」