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えどさんごくし

江戸三国志

吉川 英治

「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页

青空文庫

と、いきなり髪の毛をつかもうとする。

そっとあのままで目がさめたら、さだめし、やけ酒のあとのさびしさが一時に襲って、ふたたび酒にでも走らなければ耐えられなかったのかも知れないのが、この唐突な暴力組のために、彼女はかえって強くなり得ました。

で、髪へのばして来た相手の腕を、薄い手のひらのこばで、こッぴどく払いつけて、

「しゃれたまねをおしでない。小屋の木戸口や楽屋裏へ来て、芸人の冷や飯をもらって歩くお前たちが、口出しをする幕じゃあるまいに」

「女のくせにしやがって、きいたふうな事を言やあがる。こう、気の毒だがおれ達は、太夫元から頼まれて、てめえの一座に前貸しの給料を取り返しに来たんだからそう思ってくれ」

「いくらがみがみ言われても、ない袖はふれないよ」

「よく捨てばちをほざいたな。よし、金がなければ、そのからだを廓へでも何処へでも売りとばしてやる。さッ来やがれ」

一人は早くもうしろへ廻って、お粂のきき腕をねじ上げました。

無論、いくら相手が三文奴でも、六人と束になって来られては、自分ひとりの力でどうにもならない成行きは分りきっておりますが、こうなると、弱くなれないお粂でした。