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えどさんごくし

江戸三国志

吉川 英治

「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页

青空文庫

「ちッ!」

いやというほど、その男の頬をはりつけて、さらに一人の胸いたを突いて飛ばす。

「やったな」

「それ、半殺しにしてしまえ」

元より、その計画でやって来た手合ですから、かかるとなると気がそろッている。

襟がみをつかむ、腕をねじあげる、そして、蹴る、蹴倒す、ふみつける。

四方、蓆で囲ってある上に、人ッ子ひとり居ない掛小屋の中ですから、止めてもなければ、人立ちもせず、こういう仕返しをやるには存分な場所です。

「さ、殺すなら殺しておくれ。殺せ。殺せ」

「おお、殺してやる」

「ただの女芸人と思っているのかい。これでも江戸では、丹頂のお粂といわれた姐御だよ。さあ、立派に殺してもらいましょう」

「おれたちも文身庄の身内だ、鶴だか丹頂だか知らねえが、興行元から頼まれて、前貸も取れねえじゃ引退がるわけにはいかねえ。のぞみどおり殺してやるから、泣き声をあげるなよ」

五、六本の長脇差が、一時にぎらぎらと取り巻いて、お粂のからだを針差のように突いてしまうかと見えました。

その時です。

どこに居てこの様子を見ていたのか、そこへ飛んで来た一人の旅装いの男が、

「皆さん、つまらないじゃございませんか」