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えどさんごくし

江戸三国志

吉川 英治

「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页

青空文庫

で、そちらでは不意に思いなさるだろうが、私の方じゃ、これでも贔屓の客のつもりさ。は、は、は、は」

と、銀歯をむいて笑いました。

では、自分をひいきにして、毎晩小屋へ見物に来ていた客だったかと、お粂はその老巧な話しぶりに少しの疑惑もはさみません。

九兵衛は、手にしている煙管の吸口を、カチと歯にのせながら、

「ところで粂吉さん、さっきから様子を聞くと、急に一座をくずして、この興行もおやめだという話だが、そして、お前さんは、一座の者をみんな押っ放して、これからどうしようというつもりなんだね」

「さあ……恥しい話ですが、さしあたって、どうという考えもなく、急に舞台がいやになったもんですから」

「といっても、困るだろうじゃないか。……それにお前さん、江戸弁だね」

「ええ、元より、江戸の生れですから」

「どうだろう、年寄の口から、ちといいにくい相談だが……」と、膝をすすめて「わしは女房もないし子もないからだで、店の方も買出し以外は番頭まかせ、いやらしいことをいうようだが、浜町の方の別宅に、ひとりくらいの女気がほしいと前から心がけていたところだ。妾といっては気に染まないかも知れないが、当座の間なんとつかずに、まあ、わしの世話をしてくれる気で、甲斐絹屋の別宅に来てくれないか」