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えどさんごくし
江戸三国志
吉川 英治
「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页
青い編笠に紺かたびら、藁草履の音を静かに摺って、最前から、二度ほどその寺町を行き戻りしていた侍が、
「はてな、さっきの八刻半は聞きちがえであったろうか」
つぶやきながら、とある所の欅の根に腰をおろして、
「――でなければもう九刻、そろそろ見えてもよい時分だが」
と、くり返して、道のあなたをしきりと見ています。
と――近づいて来る人声がある。
「来たか」
と侍は、すぐ腰を立てましたが、その人影が期待とちがって、二人連れであったのに驚いて、急に自分の影を欅のうしろへかくしました。
すると。
そこを通り過ぎたふたり連れの影は、何か、ヒソヒソとささやき合いながら、うっそうとした岡の森にある鼻寺の山門へ吸いこまれて行った様子です。
それをやり過ごして、欅のかげを離れた侍は、二ツのうしろ影へ編笠のつばを上げて、
「不思議だ! 今のやつは、四ツ目屋の新助に雲霧の仁三、たしかに、あの二人に相違なく思われたが?」
棒立ちになって、そこに小首をかしげておりますと、その姿を見つけたらしく、石屋のわきの石置場を抜けて大股に急いで来た秦野屋九兵衛が、屈み加減に、さぐり声をひそめて、