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えどさんごくし
江戸三国志
吉川 英治
「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页
いかにも、心からくつろいだように、九兵衛はさりげなく煙草入れを抜きとって、ゆうべからの暗中飛躍などは、みじんも顔にあらわしておりません。
強いて彼の行為を知っているものが、仔細に彼を注意していれば、口へきせるをくわえた時、庭先で鯉を料理していた八助へ、ジロリと意味ありげな一瞥を投げましたが、それとて日本左衛門の烱眼にさえ、少しも怪しげに見えなかったくらいなものです。
「時に秦野屋、ちょうどいい所へ来てくれた。実は今親分から、思いがけないことを打ち明けられて、おれ達のような若い者じゃ、相談相手になりそうもなく、弱っていたところなのだ」
日本左衛門は笑いながら、そばから語尾を引き取って、
「仁三のように、そうしかつめらしく聞かれては困る。実はな、九兵衛」
「へい」
「軽い気持で聞いてくれ――夜光の短刀をさがす上に、とかく邪魔になるやつを片づけてしまおうと、おめえをはじめ皆にも役割をきめて今日までだいぶ手をつくしたが、こいつあおれのしくじりだった。明らかに日本左衛門の心得ちがいに相違なかった。なるほど、盗賊としての四ツ目屋や雲霧は、どんな離れ業でもやってのける、たしかに一人前以上の才覚はあるが、さて、人を殺すという仕事は、すこし性質が違っている。