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えどさんごくし
江戸三国志
吉川 英治
「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页
で、尺取のやつのように、かえって向うのわなに墜ちたりなんぞするというもの。おそらくは、おめえのような巧者にして、金吾を狙ってみるとなれば、物を盗む仕事とはだいぶ勝手が違うだろうと思うのだ」
「なるほど」
九兵衛は煙管をしゃに持って、とっくりと耳を澄ましていた。
「で、おれのうけ持ったお蝶だが……。あれにしても、殺せるまでにこぎつけるにゃ、それ相応に骨が折れた。しかし、おれはたしかに、そこまではこぎつけた」
と、稲吉や新助の怪しむ顔を見廻して、
「――実をいうと、この間の晩、甲府の或る裏町で、おれはお蝶を殺すばかりにしたのだ。そこは、蜻蛉売りの久助というやつの家だった。その久助は、山岳切支丹族のなかまの一人で、秩父か赤城のやつらの会堂へお蝶をつれて行こうというので、その晩こっそりと相談をしていた」
「親分、お話し中ですが……」
「ウム、何だ」
「その山岳切支丹族というのは、一体どういうものなんです」
「この世間では絶対に信仰のゆるされない切支丹。どうしてもその宗門を裏切れない信徒。寛永の邪宗門狩以来、山のなかに逃げこんで山の会堂に子孫をつくっている伴天連の血脈。