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えどさんごくし
江戸三国志
吉川 英治
「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页
浜島庄兵衛の日本左衛門、ここに初めて、手下の者へも秘していた、ひとつの大仕事をうちあけようとして、声調おのずから低まりました。
塗籠の外では龍平。
ガチリ、ガチリ……と、いつまでも錠前と取ッ組んでいる様子なので、見張へ廻っていたお蝶も、見ていられない気になって、
「ちイッ、なにをしているの」
「ま、待ってくれよ」
「鍵が合わないのかい?」
「ピッチリ這入っているんだが……」
「おかしいネ、貸してごらん」
代り合って、こんどはお蝶の白い指が、冷やかな金物にふれました。
日本左衛門を真ン中に、土蔵のうちでは黒いものが、
「短刀?」
「ウム」
「一尺ばかりの短刀ですって」
「ウ……」
「親分がそれまでに目をつけるからには、いずれ鈍刀じゃござンすまいね」
「もちろん」
「とすると――行平、小鍛冶、正宗、あんな仲間でございますか」
「いいや」
「少し下がって、千手院、手掻、志津、長船もの」
「ちがう」
「古刀ですか」
「うんにゃ」
「じゃ、新刀で?」
「そうでもねえ」
「はてね……。だが、相州とか伯耆とか京ものとか、およそ、その短刀の系図ぐらいは見当がついていねえんでしょうか」
「いる!」
「分っていますか」