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えどさんごくし
江戸三国志
吉川 英治
「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页
「ウム、実は、羅馬の鍛冶だ」
「えッ」
と、ここで初めて黒い連中は、自分たちの反問が迂愚というよりは、てんで、お門違いであったことに気がついて黙りこみました。
しがない白浪の下ッ端にしろ、剣といえば日本のほこりと合点し、伊勢の玉纏横太刀や天王寺の七星剣などの古事はとにかくとして、天国出現以来の正宗、義弘、国次、吉平、等々々のえらい剣工を自分たちの祖先にもつことを三ツ子といえども知っていて、いわゆる銘刀といえばそこいらでなければならないと心得ているところへ、日本左衛門が、羅馬の鍛冶――とあまり意表外なことを言ったので、あたまも尻ッ尾もなく皆ヘンな顔をして半信半疑、イヤ、無智をなぶられるのではないかとムッとした色さえ目つきにうかがえる。
「妙に聞くかも知れないが、決して、嘘やからかい事じゃあない」
無智な手下たちの気を見てとることは早く、日本左衛門、
「――おれが生涯の大仕事として、ひそかに探し求めているのはその短刀の埋もれている在所だ。最初の聞きこみはこの先生金右衛門、抜け買い(密貿易)のことで五島沖の南蛮船にもぐりこんで行った時、その船の加比丹(船長)から、おれたちに連絡のあることを見こまれて、頼む! と打ちあけられた仕事なのだ」