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えどさんごくし
江戸三国志
吉川 英治
「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页
その感にたえている様がばからしそうに、新助はおはちのふたへ肱をついて、
「なにがですえ?」
「印籠のおじめ、五分玉のかんざし、何だってこれくらいな珊瑚なら、好きな物がとれようじゃねえか」
「ヤキが廻りましたね、親分も」
「ばかをいえ、大名の土蔵をかき廻したって、古渡りで、しかもウブなこんな珊瑚が生地のままであるなんていうことはない。何しろ、いい物が手に入ったよ」
いかにも艶冶な桃色の中へ心まで溶けいったさまで、新助の半畳などには耳を貸している風もない。それはまごうかたもなく当時にあっては何人も珍重しておかぬ伊太利珊瑚の虫きずもない七寸ばかりな生地でした。
けれどよく見ると、それは地中海からあげた素のままとも思われない品、加工した痕がある。何かの品として愛玩されたらしい手艶がある。膝にのせている主は、行燈のやわらかい灯をよせて、これがそも何に使用されたものか、どんな持主の手にあったものか、そして、これを売りに来たあの娘の素性にまで、鋭い想像を走らせているものらしく見られました。
「そりゃ私だって、物はたしかだと見ていましたがね」
「あたり前だ、奥にいたおれにさえわかったことを」