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えどさんごくし

江戸三国志

吉川 英治

「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页

青空文庫

生ける埴輪は生きながら埋められてゆく身をもがくのみです。

すると。――誰も人の住んでいないはずの空屋敷の中で、何か変な物音がしました。

「おや?」

と切支丹族の三人は、耳をすまして振向きましたが、気がついてみると、たそがれの靄がうッすらと流れて来ていて、いつか辺りは、あいろも分かぬ暮色であります。

それきりの事で、べつに変ったこともない。

家の中の物音は、野猫か鼠であったかも知れません。

その野猫のひとみのような四日月が、紺の深い夕空に懸っているのを仰いで、

「おお、思わず遅くなった」

「帰ろうぜ、山の会堂へ」

針屋の振分、人形箱など、あたふたと身につけると、彼等は風のごとく岡の空屋敷から消えました。

…………

あとには、四日月の白い光が水のようです。土とも草とも分らぬ狼藉なそこらに、雨のような虫の声。

松虫、すず虫、くつわ虫、かんたん、こおろぎ、かねたたき、あらゆる虫の音が、わが秋の夜ぞとばかり啼きすだいています。

と――空屋敷の中でポッと一つの灯がともりました。そして、さっきは閉まっていた盲目窓が半分ばかり開いている。

不思議です。

そこに居るはずもない人間が居たのはとにかく、生ける埴輪とされた土中のおりんをなぜ助けてやらないのか。