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えどさんごくし

江戸三国志

吉川 英治

「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页

青空文庫

次郎のよろこび、言うまでもありません。

彼は、一刻も早く、それを持って高麗村へ帰り、千蛾老人に仮面を見せて、さらに江戸へ行くべく心をせきましたが、月江の打身が容易に癒えないので、それからも空しく一月あまりの日を、小仏の茶屋に過ごしていたのでした。

また。

万太郎はそれを次郎へ託した後、金吾や釘勘と共に、即日、甲府から秩父路へ向っています。

日本左衛門のあとを追い、かたがた切支丹屋敷のお蝶の行方を知るためであることは、言うまでもありません。

けれど、次郎と月江が小仏の茶屋に足をとめている間は、その後の万太郎を初め金吾や釘勘の消息はさらに聞かなくなりました。――甲府から奥秩父にはいる道は、甲武信の山脈の折り重なっている有名な嶮路で、不便は元よりのこと、めったに便りをもたらす飛脚の往来とてもない山地ですから、三人はいよいよ山また山の深くへわけ入ったものと想像されています。

谷間へ落ちた時のかすり傷や打身も、秋の立つ頃にはすっかり癒えて、月江の体は元の月江に回りました。で、次郎と共に、夏から五十日あまりの日を過ごした甘酒茶屋へ別れを告げて、小仏の秋を惜しみ、高麗村の秋をしのびながら、この武蔵野まで帰って来ました。