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えどさんごくし
江戸三国志
吉川 英治
「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页
「そう……」月江はホホ笑みながら、次郎の肩へやわらかい手を廻して、
「おまえ、私をおぶうときまりがわるいの」
「だって、お嬢様は、女だもの」
「でも、主従だから、人が見てもおかしくはないはずだろう」
「だって女だもの。お半長右衛門みたいだ」
「あら。おまえお半長右衛門なんてことを知っているの」
「熱海にいた時、おりんさんが貸本屋から借りたのを、読んで聞かせてくれたんです」
「まあ。おりんはあんな本ばかり好きなんだね。そしておまえは、そのお半長右衛門の話が分ったかえ?」
「分らない」
「分らないくせに覚えているの」
「絵が描いてあったんで、なんだか、お嬢様をおぶって川を渡っていると、おいらが絵になったような気がしたんですよ」
「ホホホホ、じゃ、その絵にあった長右衛門も、次郎みたいに、般若の仮面をかぶっていたかえ」
「ううん、もッと、きれいな男でした」
「女も、私よりずッと美しい、京鹿の子の帯をしめた娘でしょう」
「でも、女の方は、その絵よりもお嬢さんの方がなお美しい」
「嘘ばッかり」
と、月江が次郎の喉をしめるようにしますと、彼の胸は激しい動悸が打って、仮面の中の顔が火のように燃えました。