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えどさんごくし
江戸三国志
吉川 英治
「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页
その一足あとから、半五郎につづいて、月江が息をせいて来てみた時には、次郎は血ぶるいをしていました。
すでに、野槍の穂さきは血糊をなめ、足元には、ひとつの死骸が草をつかんでうツ伏している。
仲間のひとりが、いわゆる次郎の言うなるキモサシの槍玉にあげられたので、あとの二人、蓑直しの安蔵と梅市は、でなくてさえ兇暴な目をつりあげて、山刀をふッて次郎を挾撃している最中。
それを見ると半五郎は、わが子の大胆さにあッとあきれました。咄嗟にかれは、本能的な怒りを発して、
「この野郎」
いきなり梅市と安蔵に打ってかかります。
「やっ、てめえは」
と、相手の狼狽に、いよいよ勇をました高麗村の次郎は、手に馴れきッたキモサシを、槍にも棒にも刀にも使いわけて、
「ちゃん! あぶないから退いていなよ」
と、かえって半五郎の身を子供のようにあやぶんで叫びました。
たかのしれた小僧と思いきや、稀代な野槍の鋭さに、彼ひとりでさえタジタジでいた安蔵と梅市は半五郎にうしろを襲われて、もう一堪りもありません。
「うぬ、おばえていやがれ」
「山岳切支丹族の名を忘れるなッ」
いつも、捨て台詞と凄文句は、弱者のてれかくしと極まっている、そこで雲を霞という文字どおりに、二人は一散に逃げ出しました。