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えどさんごくし

江戸三国志

吉川 英治

「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页

青空文庫

「なに? なに?」

次郎は、事こそあれと、寄って来ました。

「変だなあ……」

「なにさ、ちゃん」

「この上の関久米之丞の屋敷には、ついさっき来た時には、たしか、誰も人が住んでいなかったはずなのに、今見ると、チラと、明りが点いている」

「久米之丞は殺されたよ」

「へえ、どこで」

「甲州境の小仏の山で――。だもの、空屋になっているのは当りまえだよ」

「それだのに、明りが点いているのは妙だと言うんじゃねえか」

「何処に見える?」

「も少し、おれの方へ寄って見な」

「……見えないやあ、なんにも見えないや」

「そんなはずはねえ、今、チラチラと木の間に光って見えた」

「お嬢様には見えますか。久米之丞の空屋敷に明りが点いているんですって」

「見えないねえ、私にも」

「それごらんな。ちゃんの眼は少しどうかしているぜ。見えたとすれば狐火か、それでなけりゃ、小仏で殺された久米之丞の人魂かも知れない」

そう言って、次郎は事もなげに笑いました。

とにかく三人は、岡の空屋敷へ急ぐことにしました。そこに灯がさしているか否かも、近づいてみれば解決がつく。

が、この押問答は半五郎の負けでした。行き着いてみると、例の古家は昼間よりシンとしていて、少しも変ったふうはなく、また半五郎の見たという灯のもれている様子もありません。