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えどさんごくし
江戸三国志
吉川 英治
「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页
「親分、あいつは、伊兵衛があのドサクサまぎれに、さらッて逃げたんでございます」
べつな乾分が横から告げます。
なるほど。
それには日本左衛門にも、頷ずかれる節がある。真土の上の黒髪堂で、突然、かれが斬りつけてきた抜きうちは諸手をかけてきたのであって――今思えばあの時面箱を持っていた様子はなかった。
「まア、そりゃ、どうでもいいが……」
深くは詮索せずに、先の疑問。
「で、それから、馬春堂が何か話したのか」
「そうです、伊兵衛さんの口ぶりじゃ、その面箱をポンと開けると、面の裏から、奇妙な、えたいの分らねえ、反古を綴ったものが出て来たんで、その鑑定をして貰いてえというので、裏に住んでいる馬春堂を呼んで来たんでございます。そこで馬春堂が、ズウと読みながら、こりゃあ大変だ、途方もねえことが書いてある、ウウム、と唸りながらそいつを伊兵衛さんに解釈して聞かせます。あっしも、隣の部屋でツイお相伴をして聞いちまいましたが……」
どうもお人好しだけに、複雑な話になると廻りくどい。
つまり。
率八の話を綜合してみると、それは尾州家の若殿徳川万太郎が秘持していた「御刑罪ばてれん口書」