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えどさんごくし

江戸三国志

吉川 英治

「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页

青空文庫

それを器用に五体へ巻きつけて、四本足の蜘蛛となって働いていたものとみえ、一斉に、黒ぐるみから脱け出すと、みんなふだんの通りな身装で、布は二ツに折って腹巻に締めこむ。

「腹が黒い」という語源が、そもそもこの辺りから出たものかどうか、それは詮索の他としまして、とにかく半反の布、よく彼らに保護色を与え、機に応じ変に臨んで白くも黒くも意のままであります。

ちょッと、たもとからくり出される数珠繩の梯子や、脱いで腹巻になる黒装束などは、どうあっても根が武家である日本左衛門の才覚でなくてはなりますまい。嵯峨流の手明灯やそれらの利用などを考え合せるに、この一流の黒衣も忍者の故智を盗んだものにちがいなく、しいて名づければこう申しましょうか――白浪流早抜きの黒衣。

さて。

連中があざやかに引揚げ支度をなし終ったのを見ると、抜け買いの先生金右衛門が、

「おい、日本左衛門」

「ウム……」

という気のない肩を打って、

「――がッかりのあとが理に落ちて、イヤに今夜は陰気になった。吉原とでも目先をかえて、大陽気にサンザメかそうか」

「よかろう、案内をしてくれ」

「雲霧」

「おう」

「行くか」