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えどさんごくし

江戸三国志

吉川 英治

「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页

青空文庫

思えば……。

じッと冷静に夜光のまぼろしの遠い過去を思えば……それは二年や三年、きのうや今日に始まったことではないらしい。

元和、慶長のころ、すでに現在から百余年も昔のまだ江戸城創府の当時から、どうしてもなくてはならない夜光刀をこの日本に求めて、幾多の異国人が千里の波濤をこえ禁教の国を承知しながら、捕われても首きられても、生きかわり死にかわり、日月の転変と共に絶えまなく海の外から訪れていたのではあるまいか。

率八の話をきいて思わず深い黙思に落ち入っていた日本左衛門は、やおら、やがて、

「うッ、うーウむ……肩が張った!」

土蔵の天井をつきぬくように双手をさし上げ、人もなげなる伸びをして、

「さあ、いつまで、ここにこうしていてもしようがねえ。みんな! ぼつぼつ引揚げとしようぜ」

ぬッくと、大長持から腰をあげました。

そして自ら先に、黒頭巾を脱ぎすて黒衣を解いて振り落とすと、下は常着のおはぐろ紬に鶯茶の博多かなんぞと見られる平帯。

それに習って。

一党の黒い連中もおのおの黒衣の一端からクルクルと仕事着の皮を剥きはじめる。

見ると、それは縫目もなければ袖もない、並幅半反ほどなただの黒木綿。