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えどさんごくし

江戸三国志

吉川 英治

「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页

青空文庫

どうしてそういう人達が、こんな所へ墜ちたかというと、その無辜な者は危険を知らずに天童谷へ迷って来た旅人で、その罪ある者は、切支丹村のうわさを聞いて、われ見届けんと暴虎の勇で、自分から飛びこんで来た者や、或いは、職のために探りにはいッて、見現わされた山役人や岡ッ引であると言います。馬春堂などは、その前者の方でした。――先生は例の道中師の伊兵衛と組んで、お粂の家から一座の有金をさらって逃亡した後、御岳口から山街道へ走りましたが金を持った伊兵衛には途中でどろんをきめられ、途方には暮れる。道には迷う、その揚句にいい泊り場所を見つけたと、よろこんではいって来たのが、この天童谷の切支丹村。

かりにも、この秘密郷の生活をのぞいた者は、その故意であるとないとにかかわらず、彼等はふたたびその人間を里へ帰すことはしません。しかしまた、それを殺す事もしないで、「山の会堂」の底へ抛りこんで置くには、或る理由があるのでした。

切支丹族の者たちが、もっとも心細く感じていることは、年ごとに自分たち種族の数が、減りつつある現象です。

それは、女の生む数が少ないのと、絶えず世の迫害と闘いつつある結果として、里で捕らわれたり殺されたり、当然な犠牲を多く出すためによりましょう。