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えどさんごくし

江戸三国志

吉川 英治

「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页

青空文庫

で――その補充をしなければならない。彼等は、この穴にほうり込んで、ある期間の冬眠状態を経過させた人間を、やがて「山の会堂」へ呼び出します。

そこには、剣と十字架と、二つのものが用意されてある。そして、どっちでもその一つを選ぶにまかせる。

剣をのぞむ者には死。

十字架をのぞむ者には、洗礼を与える。

そこで反抗をみせた人間はかつてないそうです。十人が十人、洗礼をのぞまないものはありません。流涕の歓喜にひたって洗礼をうけます。そして、厳かな誓いをむすびます。初めて、切支丹族の仲間入りをしたわけです。

そうして、種族にはいった人間は、もう、どんな事をしても、村に反いて元の国や家へ帰らないという事も、彼等は信じているのです。おそろしい催眠術的な魔法ですが、また、彼等の生活にも、何か人知れぬ魅力があるのかも知れません。

「じゃあ馬春堂、お前も今に、会堂へ呼ばれて、洗礼をうける日をたのしみに生きているのかい」

雲霧がこう聞きますと、馬春堂先生は、

「うむ……」と、うなずいて、またのろまな動物のように、隅の暗やみへ匍いこんでしまいました。

「そうすると?」

「おれも。