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えどさんごくし

江戸三国志

吉川 英治

「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页

青空文庫

しかし、不意の事件におどろいた群衆の動揺は、ただ口々に何か騒いで、かんじんな自分たちの中に潜んでいる小柄の投げ人を忘れている。

と――その見物のなかに、ただひとり挙動のちがう人間が見出されました。それは、編笠に顔をかくした浪人体の男です。そしてその男が、神楽堂の騒ぎや周囲の狼狽を冷ややかに見やって、何処かぜ吹くかというように、人浪の中をふところ手で抜けてゆく姿が、飴屋の傘にかくれました。

「やっ? ――似ている」

と、釘勘がそれに身のびをして、金吾の袖を引いた時、折悪しく、最前の神主がうやうやしくふすまを開いて、

「おかまいも申さず、長時お待たせいたしまして、まことに失礼仕りました」

と、それへ出て、いんぎんに改まりましたので、二人は、不作法に窓を開けて覗き見をしている訳にもゆかず、外へ心を残してそこを閉めきりました。

で、坐り直ると、脇息をかかえて、うつらうつらと居眠っていた万太郎も、さっぱりと疲れの癒えたように冴えた顔をして、

「いや、自分達こそ、祭典の忙しいところを、突然邪魔をして気の毒に思う。……して、先程頼んだ山案内の者は見つかったであろうか」