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えどさんごくし

江戸三国志

吉川 英治

「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页

青空文庫

かかればかかるほど、凡婦と凡夫、自己の錯覚に捉われてゆくばかりで、

「どうして開かないのだろう。こんなはずはない、こんなはずは……」

精と根気をすり減らすのみでした。

そうです。鍵がきかないのかと一時思ったのは、あれは、龍平があわててカラ廻りをさせていたので、いつのまにかそれは立派にはずれていて、そのくせ、依然たる開かずの戸。お蝶の根気も龍平の力もうけつけたものではない。

「よそうじゃねえか」

とうとう男が、弱音を吹くと、

「なにさ!」

かえってお蝶の方はやッきとなって、

「折角鍵をなにして来たのに、またいついい折があるか分りゃあしない」

「そうだなあ……。どれ、もう一度おれが」

浅ましいやつ。

まだ感づかずに、口をへの字に曲げて渾力をしぼっているかれの形は、力をこめればこめるほど冷蔑と滑稽を思わせますが、吾人にもこんな例がままあって、開けばかえって不幸な扉を、無理にも開こうとし、その開かぬことを人生の不運となげいたりして、龍平と同じ努力をやることが処生の随所にあるような気もします。

「あっ……お待ち!」

その時。

お蝶が不意に袖をひきましたが、龍平は磁力に吸いつけられてしまったように、