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えどさんごくし
江戸三国志
吉川 英治
「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页
「ウムッ……強情な戸だなあ……」
「お待ちってば、龍平」
「こいつあ変だ。いよいよあかねえと相場がきまった」
「それどころじゃあない……」
「えっ」
「たれか来たようだよ、人がさ……」
「ど、どこへ?」
と、かれがうしろへ目をやった途端。
しまった!
埋め門の側にある石井戸の陰から、こッちの様子を眺めていたらしい提灯の明りがチラッと……。
はッと驚いて、男女がそこへしゃがみ込むと同時に、向うの提灯もふッと消えましたが、それと共に明らかに分るのは、タ、タ、タ、タッ……暗い大地をうって、ここへ目がけてくるその人間の跫音。
「ちイッ、いけないねえ……」お蝶は龍平の手首をきゅッと握って、
「見つかったよ、見つかったよ」
「こ、こうしちゃアいられねえ」
ひッ腰もなく、男が戸まどいして馳けだそうとするのを抑えつけて、
「慌てでない……そんな方へ逃げだしてどうするのさ」
「おっ、来やがった」
「早くッ……姿を隠すんだよ!」
じゃけんに枯れ草の中へ男を突きとばしておいて、お蝶自身はヒラリと石垣の下へ飛び降り、そこに乱雑に積んであった大谷石の間へ、機敏に体をひそませました。
と!
一瞬の間を措かず、そこへ、疾風のようにとんで来たひとりの武士、六尺棒をかいこんで、ハッ、ハッ、と白い息をはきながら、