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えどさんごくし
江戸三国志
吉川 英治
「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页
さて、酒の興も、およそな頃、
「折入って、万太郎様に申し上げたいことがござるが、暫時、別室までお越しを願えましょうかの」
と、気がねをしながら、千蛾老人が金吾へまで申し出る。
それくらいな事なら、至って気軽な若殿です。金吾の取次も待たず、即座に席を立って、彼の案内について別の間にうつります。
人の来る前に、すでに、丁字香の煙が縷々と薫っていました。ぴたりと、ふすまを閉め切って、老人の膝は改まる。
「話とは?」
万太郎は正座の敷物を少し片寄せて、微酔のからだを竹の床柱にもたせかける。
「夜光の短刀のことにつきまして……」と老人の痩躯が厳そかにそびえると、万太郎もやや態度をひきしめて、
「お。その儀は、自分からも問いたいと思うていたところじゃ。当家と、あの短刀の持主ピオと申す異国の貴人とは、深い縁があったそうな」
「さればでございます、浅からぬ奇縁があって、当家歴代の者も、夜光刀の捜索には、心をくだいておりますが」
「実は、自分もそれを手に入れようとしているのだが」と、万太郎がすばやく挾んだ一言には、どことなく挑戦的な語気が走りました。
が、千蛾は軽く、その語の切ッ先を避けて、