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えどさんごくし
江戸三国志
吉川 英治
「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页
「まず、お聞き下さいませ」
「ウム、短刀の詮議は止めよとあるか!」
「何で左様な自由をこの老人が持ちましょうか」
「いかなる危害が身にかかるとも、余は夜光刀の捜索を思い止まらぬ覚悟じゃ」
「千蛾も共に、御成功をお祈り申しあげまする」と、冠の紐のように、老人の白髯の先は膝につきました。
「では、そちには、野心がないのか。われらよりは、必ず多くの手懸りもあろう其方が、思い止まったとは心得ない」
「御意のとおり、家の宝としても稀代な名品、羅馬の王家へ戻しやれば、多大の報酬のある品物でございます。狛家歴世の遺志をついで、この千蛾も、手に入れたいは山々でございますが、仔細あって、それは徳川万太郎様に、おゆずり申しあげたいと存じます」
「わしに譲る? ……」と、彼いよいよ不審そうに千蛾の顔を見つめて――「と申しても糠欣びであろう、今もって、皆目手がかりのないものを」
「いやいやそうでもござりませぬ。奥秩父の切支丹谷に棲む者や、日本左衛門などという盗賊たちの手さぐりが、次第に迷宮のくらやみを縮めておりまする。必ずや、遠からぬうちに、幾本かの手さぐりの指先に、秘密の鍵がつかまれましょう」