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えどさんごくし
江戸三国志
吉川 英治
「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页
途端に――日本左衛門の影は鼠走りに、中廊下の横へかくれました。もう、金吾にはそれが感じられたので、彼は、手燭をそこへ置いて、
「曲者ッ」
と、一跳足に、飛んで来ました。
「なに、曲者?」
同時に、彼の起きて出た隣の部屋で、こういったのは万太郎です。――遠ざかる廊下の足音を耳にするが早いか、同じく、おッとり刀という構えで、
「金吾ッ、何ごとじゃ」と色をなして駆けつけて来ました。
「おお、若殿。お目ざめでございましたか」
こういいつつも、なお八方へ眼をうごかしている金吾の様子に、
「曲者はいかがいたした?」
「見失ったようにございますが、まだ屋外へ逃げ出した様子は見えませぬ」
「家族たちを起こしたらどうじゃ、物盗りであろう」
「気がかりなのは、千蛾殿のいる、北の屋の一室です。――あの辺りで、何かふしぎな物音が聞こえましたので、それで目をさましましたので」
「千蛾の部屋に妙な音が聞こえたと。それは気がかりだ。万一、あの……」といいかけたまま、万太郎は思い当った不安に駆られて、一散に彼のいる北の屋へ走り出しました。そして、そこの橋廊下を渡って、境の錠口でドンという音をさせると共に、