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えどさんごくし
江戸三国志
吉川 英治
「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页
無論、それと気がついて怯む金吾ではありません。おのれッとおめいて、うしろへとびつくが早いか、上背のある相手の体へ組みついて、
「拙者は相良金吾だ。うしろを見せては約束がちがうであろう」
耳も破れよと怒鳴りました。
日本左衛門はあわてもしないで、肩から胸元へ廻している金吾の腕に自分の手をかろく重ねて、
「今夜はすこし都合が悪い。またそのうちに会おうじゃねえか」
ジロリとうしろへ瞳を流してあいさつしました。――がしかし、金吾はこう組止めた大きな仇敵をどうしてめったに離すことではありません。
「だまれ。小仏の谷間でなんと言った、この後拙者から果し合いをのぞまれた場合は、なん時でも、必ず逃げかくれはせまいと言ったことばを、よも忘れてはおるまい。卑怯であろうッ」
「いや、卑怯ではない。おれは今自分の渡世を働いているところだ。稼業のなかでそんな道草を食ッちゃいられねえ。おれに会いたくば、拝島の空屋敷まで改めて出直して来い」
という言下に、肩を落として、組みついている金吾を前に振り捨てようとしましたが、金吾もウムと踏みこらえて、易々とそうはさせません。
受身になった日本左衛門と組みついた金吾と、ふたつの体が一つによじれ合って、どんと壁の腰にぶつかるなり大きな震動をたてましたが、その途端に、日本左衛門のかかえていた樟板の絵図