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えどさんごくし
江戸三国志
吉川 英治
「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页
すぐあとから一本の刀の光が、海蛇のごとく閃めいて見えました。星明りをうけて、それは日本左衛門と知られます。刀の血糊を拭いてとると、チーンと鳴りのいい鍔音をさせて、金右衛門と肩をならべて石段を一歩、一歩、と降りかけます。
つづいて、髷をハネたいなせな若い男、雲霧の仁三です。
でっぷりと肥った男、千束の稲吉です。
一眼、じゃんかのこわい顔をした男、尺取の十太郎です。
そのほか一味の乾分と名のつくともがら、あとから後からと姿をあらわして、魔形一列を成すかと思われましたが、十二、三人目に出てきたお人好しの率八を殿の止めとして、もう土蔵の中にいた黒いのは、残らず出払ったかと思われました。
ところが、また少し間をおいて、慌てて走り出してきたのは、今までの連中と違って、しなやかな線をもった痩せ形な人影。
追いついて、先の群へ交じった時、ふとその横顔が白く読めました。道理で馳けて行った時の姿の見好かったはずです――それは女! あの丹頂のお粂でした。
しとしと……と多くの足音が、遠のいて行く後をのび上がりながら、仲間の龍平とお蝶は、互に茫然とした顔を見合わせたのみで、なんの言葉もありません。