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えどさんごくし
江戸三国志
吉川 英治
「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页
吉宗は思っています。
「万太郎の胸は鬱々とした不平で燃えているであろう」と。
万太郎は観ております。
「吉宗は飾り物に祭り上げられた得意な気持から、おれをみじめな者に見下しているな。それで養子の口があるなどと自分を揶揄して誇るのであろう」と。
前の将軍家が歿した時、紀伊と尾張の間に激しい暗闘があったといううわさが、誰の口からともなく巷間にひろがって、尾張は新将軍の令に伏すまいなどというような事さえ吉宗の耳にはいっておりますので、彼は万太郎の素行も、昔からの性格とは知りつつ、やはり好意のある理解は持てなかったとみえます。
しかし、表面はどこまでも、竹馬の友である紀伊の庶子と尾張の庶子とが打解けたさまで、
「何の頼みかと思うたら、江戸城の庭を観せてくれとはいと易い望みじゃ、幾日なりと滞在して御覧あるがよろしかろう」
と、吉宗は彼の深慮のあるところを知ってか知らずか、簡単に笑って承認を与えました。
「早速の御許容で」
万太郎はまず先に礼をのべておいてから、
「ではおことばに甘えて、当分、当城の隅に泊めておいて戴くとする」
「いや、隅でなくとも、大奥以外の場所ならば、何処にでも自由に」