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それでもわたしはいく
それでも私は行く
織田 作之助
「京都日日新聞」1946(昭和21)年4月25日~7月25日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 89,708 字 · 181 页
四条河原町
一
四条河原町
一
先斗町と書いて、ぽんと町と読むことは、京都に遊んだ人なら誰でも知っていよう。
しかし、なぜその町――四条大橋の西詰を鴨川に沿うてはいるその細長い路地を、先斗町とよぶのだろうか。
「ポントというのはポルトガル語で港のことだ。つまり鴨川の港という意味でつけた名だと思う」
と、ある人が説明すると、
「いや、先斗町は鴨川と高瀬川にはさまれた堤だ。堤は鼓だ、堤の川(皮)はポント打つ。それで先斗町という名が出たのだろう。小唄にも(鼓をポント打ちゃ先斗町)とあるよ」
と、乙な異説を持ち出す人もある。
鼓がポンと鳴れば、やがて鴨川踊だ、三階がキャバレエ「鴨川」になっている歌舞練場では三年振りに復活する鴨川踊の稽古がそろそろはじまっていた。
「君の家」の君勇は稽古に出掛けようとして、
「……通い馴れたる細路地を……」
と、昔、はやったが今はもう時代おくれになってしまっている鴨川小唄の一節を、ふと口ずさみながら、屋形の玄関をガラリとあけて出た途端、
「あら――」
と、立ちすくんだ。
路地の奥から出て来た、まだうら若い美貌の学生の姿を見つけたのだ。
帽子の白線は三本、桜の中に三の字のはいった徽章、先斗町の「桔梗家」