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それでもわたしはいく

それでも私は行く

織田 作之助

「京都日日新聞」1946(昭和21)年4月25日~7月25日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 89,708 字 · 181 页

青空文庫

六

五万でも十万でも出す」

と、執拗だった。

六

小郷は冗談に言っているのではなかった。

こうと思い込んだら、あくまであとへ引かぬのが(ことに女のことでは)小郷の悪い癖だった。

その悪い癖がふと出たのだ。

――というよりは、むしろ、今夜の小郷はもうそんな滅茶苦茶なことでも強引に押してしまわねば、ひっ込みがつかぬぐらい、物狂おしく乱れていた。

妻の真紀子が姦通していることを、たった今はじめて知ったという苦悩が、小郷をやぶれかぶれの情欲のるつぼへ陥し入れてしまったのだろう。

そして、鈴子はその対象として、この際うってつけだった。

可憐な小鳥を巻き殺してしまう蛇の残酷な快感の期待に小郷はしびれていたのだ。

そのために莫大な金を出さねばならぬということもかえって小郷の決心を固くさせていた。

が、とにかく滅茶苦茶であった。

だいいち、はじめて呼んだ舞妓を、いきなりその夜、いわゆる襟替えさせてしまうなんて、殆んど例のないことである。

「まアまア、今夜は酔うてやどすさかいその話はまたあとで……」

桔梗家のおかみは、君勇の手前(というのは、小郷から君勇を世話してくれと頼まれて、その旨君勇の耳に通じて置いた手前)もあり、一応柔く断って置くことにした。