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それでもわたしはいく

それでも私は行く

織田 作之助

「京都日日新聞」1946(昭和21)年4月25日~7月25日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 89,708 字 · 181 页

青空文庫

二

「――何がなるほどどんネ……?」

「あはは……」

小田は何となく笑い出した。

君勇は、この男が自分を名指しで呼んだのだなと、直感した。

その通りだった。

小田はその先輩や友人と一緒に備前屋へ来て、芸者の顔を見た時、ふと、

「そうだ。あの梶鶴雄に惚れているらしい芸者がおった筈だ」

と、鶴雄の話を想い出した。

「――たしか、先斗町の君勇という名の芸者だ」

小田は備前屋のおかみに、

「祇園からでも先斗町の芸者はよべる……?」

と、野暮なことをきいた。

「へえ、呼べます。お馴染はんおいやすのンどっか」

「いや、なに一寸会うてみたいんだ、いや、顔を見るだけでいい」

そして、君勇を呼んだのだった。

君勇が来ると座の空気はふと冴え返った。

桑山竹夫はここを先途とサノサ節の調子をはり上げた。

中山定二は何となく瞑想に耽るが如く美術品を鑑賞するが如く、何とも形容しがたい眼で君勇の横顔を見ていた。

吉井正太郎は、こんどは誰をつかまえて、リーダーズ・ダイジェスト仕込みの話をしかけようかと一同の顔を見ていたが、男はみなだめだと判ると、稲福という舞妓をつかまえて、

「君、ええ話教えたげよか。