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それでもわたしはいく

それでも私は行く

織田 作之助

「京都日日新聞」1946(昭和21)年4月25日~7月25日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 89,708 字 · 181 页

青空文庫

蛸薬師

一

さすがの小郷も照れるくらい、はしたなく……。

君勇はそんな自分が浅ましかった。情けなかった。

しかし、芸者の意地からそうしたのではなかった。

「坊ン坊ンは鈴子はんが好きなのや、だから自分はこうして、鈴子はんの身代りに……」

その気持を鶴雄が判ってくれるかどうか……。しかし、そんなことはもうどうでもよかった。

「どうせ、あては汚れた身体や」

君勇はスタンドの傍へ倒されながら、そう呟いていた。

夜がにわかに深く落ちて来て、川音の単調な響きが、その夜更けの空気の中に、くりかえしくりかえし揺れていた。

蛸薬師

一

いまわしい一夜が明けた。

東山の峰の上に横たわった紫色の雲の隙間から、さっと金色の光が流れて、加茂川の水の上にキラキラと輝き、先斗町に夜明けが来るまで、鶴雄は一睡もせずに「罪と罰」を読んでいた。

昨夜――。

君勇が鶴雄の部屋を出て行って間もなく、鈴子がいきなりはいって来ると、

「坊ン坊ン……」

そう言って、鶴雄の胸にすがりついて泣き出した。

鶴雄は照れるよりも、まずどきんとした。

「どうしたんだ!」

と鈴子の肩をはじめて抱きながら、しかし鶴雄はがっくりと力が抜けて行くような気がした。