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それでもわたしはいく

それでも私は行く

織田 作之助

「京都日日新聞」1946(昭和21)年4月25日~7月25日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 89,708 字 · 181 页

青空文庫

九

「へえん。古い科白ね」

弓子は手を握られたまま言った。

「声を出して、人を呼べば、その人にあたしが掏摸だってことをバラすっていうわけね」

「そんな野暮なことはしたくないが、しかし万一そんなことになれば、君のためにならんというわけよ」

「構わないわ。バラしなさい。その代り……」

弓子はこれが最後の切札だと思いながら、言った。

「――あなたにもためにならん結果になってよ。いいえ、望月三郎という人気歌手にとって……」

「えっ……?」

九

「……望月のやつはね、思わずどきんとしたわ」

と、弓子は鶴雄に語った。

「――やっぱり効果があったのね」

「効果っていうと……?」

鶴雄は弓子の言っている意味が判らなかった。

「つまり、あたしが声を立てて、人を呼ぶと、あたしのことをバラすと言っておどかすから、あたしの方でも逆に望月があたしを脅迫したことをバラしてやる――とほのめかしたのよ」

「なるほど、奴さん、自分の人気に疵がつくのが怖いんだね」

「そうよ。ああいう男は人気だけが生命なのよ。あたし、それを利用してやったのよ」

「ふーん。君は鋭いね」

鶴雄は「架空のインタヴュー」の文句を想い出した。