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それでもわたしはいく
それでも私は行く
織田 作之助
「京都日日新聞」1946(昭和21)年4月25日~7月25日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 89,708 字 · 181 页
下鴨
一
一寸面白いやろ。あはは……」
その話が終った時、鶴雄はその小さい亀のように、いきなり、
「山吹先生!」
と呼びかけた。
「――この間お願いしました……」
「ああ、家庭教師のこと……?」
顔は美少年のように可愛いいが、頭のてっぺんが少し薄くなっている山吹教授は、その薄くなっている箇所を撫でながら、
「――あることはあるんだが、どうも君は家庭教師になるには美少年すぎるのが一寸心配だね」
「…………」
鶴雄がぼうっと赧くなったのを山吹教授は眼鏡ごしに見ながら、
「下鴨の小郷という家から頼まれているんだが、あそこじゃ出戻り娘がいるんでね。おまけにマダムが綺麗すぎる」
小郷ときいて鶴雄はきいたような名だなと、首をかしげた。
下鴨
一
出町柳の停留所で市電を降りて物憂い、何かけだるそうな足取りで葵橋の上まで来ると、
「ああ、いい風……」
と、小郷宮子は頬を撫でる川風に、うっとりと眼を細めた。
四条から満員の電車に押されながら乗って来て、じっとりと汗ばんだ体に、加茂の流れを吹き渡って来た風は、さすがに気持がよかった。
しかし、ただ気持がよいだけではない。川風も生暖く春めいて、ふと悩ましい。