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それでもわたしはいく

それでも私は行く

織田 作之助

「京都日日新聞」1946(昭和21)年4月25日~7月25日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 89,708 字 · 181 页

青空文庫

十一

僕の思った通りだ」

隣の部屋では、望月三郎が相変らず二人の話に聴耳を立てていた。しかし、二人は無論それには気がつかなかった。

十一

「……ところで……」

と鶴雄は云った。

「くどいようだが、この百円はあんたに進呈する」

「あらッ、だめよ」

と、弓子もすかさず、

「くどいようだが、この百円はお返しします」

そして、おたがい顔を見合って笑いだしたが、鶴雄は笑いやむと、

「悲願っておっしゃったでしょう。悲願といえばね、僕はこの百円はどうせ悲願救援同盟に寄附するつもりだったんだ。あんたも戦災者の一人でしょう、だから、受け取る権利がある」

「権利はあっても、受け取らねばならぬ義務はないでしょう」

「しかし、姉さんを救う義務はあるでしょう」

そう云うと弓子はふと鶴雄の顔を見つめた。が、やがて、坐り直すと、ぺこんと頭を下げて、

「じゃ、いただきます。いえ、お借りして置きます。ありがとう」

「その代り、サイコロ下さい」

「ああ――」

思い出して、サイコロを鶴雄に渡すと、鶴雄は、

「これだけ貰えば、用はないッと……」

立ち上った。

「あら、もうお帰り……?」

「ええ」

そして、さよならと、鶴雄は出て行った。