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それでもわたしはいく
それでも私は行く
織田 作之助
「京都日日新聞」1946(昭和21)年4月25日~7月25日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 89,708 字 · 181 页
木屋町
一
鶴雄はズボンに手を突っ込んだ。
が、いつの間になくなったのか、百円紙幣がない。鶴雄は急に叫んだ。
「あッ、あの女だ」
そして駈け出した。
木屋町
一
西木屋町――。
高瀬川の小さな流れに架った紅屋橋のほとりに、「べにや」というしるこ屋がある。
この店のまわりは疎開跡の空地になっているが、ここだけは巧く疎開をまぬがれたらしい。店の軒には紅屋に因んだ赤提灯が、いかにも助かりましたという感じで、京都らしくぶら下っている。
こぢんまりした綺麗な店で、竹で編んだ床几に、尻にかくれるような小さな坐蒲団がちょこんと置いてあり、柱には誰の句か、
「一力の焦茶の暖簾春の雪」
と、赤い短冊が掛っている。
ちかごろ京都の町々に急にふえて来た京趣味、茶室風のしるこ屋の一つだが、この店がほかの店と変っているのは、常連に先斗町の芸者が多いことだ。
店のすぐ鼻の先が先斗町であるからだろうか、それともこの店が小鼓の家元の美貌の三人兄弟が男手だけで経営しているからだろうか。
もしそうだとすれば、この三人兄弟を張りに来るその芸者を、張りにやって来る男の客ほど世に間の抜けたものはあるまい。