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それでもわたしはいく

それでも私は行く

織田 作之助

「京都日日新聞」1946(昭和21)年4月25日~7月25日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 89,708 字 · 181 页

青空文庫

十

「やあ」

と、小田は声を掛けた。

錦ビルの二階の喫茶店にいたボーイだった。

青年は寄って来ると、

「僕にここで会うたこと、マダムに内緒にして置いて下さい」

と、言った。

「どうして……?」

「僕、あの店を休んでるんです」

「へえ……? 君は一日も休まなかった筈だろう……?」

「ええ。しかし、もうやめようと思うんです。じゃ、内緒にたのみますよ」

青年はソワソワと立ち去った。

小田はふとうしろ姿を見送りながら、

「あの青年もモデルにするつもりだったが、だめかな」

と、呟いた。

が、それよりももっとモデルとして重要な人物がいる。――三好だ。

小田は司法主任から、三好のことをきくべく約束の場所へ急いだ。

四条河原町を上へ二筋目を東へはいると、

「と一」という甘党の店がある。料理もやっていて、ひっそりとした奥座敷もある。

そこで、司法主任が待っていた。

「今日は事件が解決した祝いだから、ビールでもやりますかな。小田さんはいけるんどすか」

「いや、コップに二杯以上はだめです。――ところで、三好とかいいましたね……」

「ええ。君勇の元の旦那――。自首したんですよ」

「へえ……?」

「君勇が犯人だと新聞に出ているのを見て、自首したんですね。