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それでもわたしはいく

それでも私は行く

織田 作之助

「京都日日新聞」1946(昭和21)年4月25日~7月25日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 89,708 字 · 181 页

青空文庫

八

「あッ! 何をするッ! 痛ッはなせッ」

鶴雄は宮子の首を掴んだ、無理矢理はなすと、ものも言わずに、部屋を出て行った。

「このまま帰ってしまえば弓子に会えない!」

と、思うと、ふとうしろ髪ひかれる想いだったが、しかし、もう宮子とこれ以上一つの部屋にいるのは、不潔だというより、むしろ怖かった。

ところが、階段を降りようとして、ふと見ると、洗面所で何か洗い物をしているらしい、痩せて背の高い、長髪の男のうしろ姿が眼にはいった。

「おや、見覚えのある男だぞ!」

と、思った途端、その男は急に振り向いて、

「なんだ、梶君じゃないか」

小田策之助だった。

鶴雄はぺこんと頭を下げて、階段を降りて行こうとすると、

「君! 君!」

小田はあわてて呼び停めた。

八

小田は鶴雄を呼びとめながら階段の所まで追い駈けて来て、

「君、ちょっと僕の部屋へ寄って行かないか。話があるんだ」

と、言った。

「はア」

鶴雄はひき返した。

「ちょっと待ってくれ給え! 今ワイシャツを洗っちまうから」

小田は不器用な手つきで、ごしごしとワイシャツを洗っていたが、やがて、タオルを絞るように水を絞って、

「――やもめは辛いや」