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それでもわたしはいく

それでも私は行く

織田 作之助

「京都日日新聞」1946(昭和21)年4月25日~7月25日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 89,708 字 · 181 页

青空文庫

四

「はいッ!」

お雪が真紀子を呼びに行っている間、小郷はがっくりと、電話室の壁によりかかっていた。気の遠くなるほどの苦悩が、小郷の足をすくったのだ。

「あなたッ!」

やっと電話口へ出て来た真紀子も、やはり泣き声だった。

「莫迦!」

何も言わず、小郷はただ一言、そうどなりつけた途端、

「あッ!」

と、叫んでその場にくずれるように倒れてしまった。

四

「先斗町と書いてポント町と読むことは京都の人なら誰でも知っていようが、しかしなぜ先斗町――四条大橋の西の袂を北へ入った路地を、ポント町というのか、知っている人はすくないだろう……」

小田策之助はちぎり家の別館で、「それでも私は行く」の第一回目の書き出しを書いていた。

二三行書いて、新しい煙草に火をつけ、そして、一休みするつもりで、ペンを置いて、かたわらの新聞を取り上げて、読んでいるうち、小田はどきんとした。

「京極の殺人事件! 実業家小郷虎吉氏殺害さる」

小田はあわてて、その記事を読んだ。

「昨二十二日午後二時ごろ左京区下鴨××町実業家小郷虎吉氏は京極の映画館××館の公衆電話のなかで、何者かの手で心臓部へ鋭利な刃物を突き刺されて苦悶中を発見、最寄りの××病院へかつぎ込んで手当を加えたが、二時三十分落命した。