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それでもわたしはいく
それでも私は行く
織田 作之助
「京都日日新聞」1946(昭和21)年4月25日~7月25日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 89,708 字 · 181 页
三
「あれから毎日あなたのことを懐しく想い出しております。あなたは多分もうお忘れでしょうけれど……。おいやでなければ、もう一度お眼に掛りたいのです。四月二十日、十一時、円山の桜の下で待っております。(鶴)」
こんな意味のことが英文のタイプで打ってあった。一寸気ざっぽい。
「なるほど、英語だと、恥かしいことも、案外平気で書けるわけだな」
苦笑しながら、鶴雄は家を出たのだが、しかし、はっきりと田鶴子に会うという気持はなかった。
「東へ行こうか、西へ行こうか。――会うか会うまいか」
大橋の袂に佇んで、鶴雄はハムレットのように呟いていたが、やがて何思ったのか、ズボンに手を突っ込んで、小さな象牙のサイコロを取り出すと、
「偶数が出れば東だ!」
ひょいと掌の上へ転がした。
三
サイコロは掌の上で一回転した。
サイコロの五の目の絵
「奇数だ!」
鶴雄はにやりと笑うと、サイコロをズボンの中へ入れて、四条河原町の方へさっさと歩き出した。
偶数が出れば、東へ歩いて行って、円山公園で待っている田鶴子に会うつもりだったが、「5」と出た以上、もう田鶴子のことは香車で歩を払うように簡単に、黙殺だ。