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それでもわたしはいく

それでも私は行く

織田 作之助

「京都日日新聞」1946(昭和21)年4月25日~7月25日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 89,708 字 · 181 页

青空文庫

三

弓子は残酷な期待に、固唾を飲んで、じっと小郷の顔を見つめた。

瞬間、小郷の顔色がさっと緊張して、みるみる青ざめた。

思わず小郷のステップが乱れた。

弓子は再び自分からリードして、小郷をホールの真中の方へひっ張って行った。

そして、真紀子の方を見ると、真紀子の顔色は、紙のように白くなっていた。

真紀子は何か望月に囁いたらしい。望月もはっとしたらしかった。

「ざまア見ろ!」

と弓子はひそかに腹の中で呟いた。

「クンパルシータ」――この永遠のタンゴといわれる曲は、嫉妬の情を表現したものだという俗説がある。

弓子は小郷の顔に、嫉妬の苦悩が青い皺となって刻まれているのを、小気味よく見つめながら、

「今の方、奥様でしょう……?」

と、小郷の耳に囁いた。

小郷は答えなかった。咄嗟に答えられなかったのだ。

「投書が来るのも無理はありませんわ」

「…………」

「同情しますわ」

「…………」

三

その時「クンパルシータ」の曲が終った。望月と真紀子は、血の気を失った顔のまま、こそこそとホールを出て行った。

小郷は弓子の背中から手を離して、あとを追うて行こうとした。

弓子はしかし小郷の手を離そうとせず、