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それでもわたしはいく

それでも私は行く

織田 作之助

「京都日日新聞」1946(昭和21)年4月25日~7月25日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 89,708 字 · 181 页

青空文庫

六

山吹教授は鶴雄を指した。

鶴雄は赧くなった。

「梶君は先斗町に住んでるんだから、詳しいんだ」

そして鶴雄の方を向いて、

「――梶君、小田君はこんど京都の新聞に『それでも私は行く』という妙な題で、小説を書くので、京都へ来てるんだが、どうやらそれに先斗町が出て来るらしいんだ。君教えてあげ給え」

「はあ、でも……」

鶴雄は曖昧に云って困っていると、小田は急に、

「君、お茶のみに行こう」

鶴雄を誘って、ビルの二階の喫茶室へ降りて行った。

鶴雄は、随いて行った。

喫茶室へはいると、小田は暫らく寺町の闇市を見下していたが、やがて、いきなり、

「君のことを書いてもいい……?」

と、奥眼の、放心したようだが、どこかきっと鋭い眼でじっと鶴雄を見つめた。

「…………」

鶴雄は赧くなって、だまっていた。すると小田は、

「君、恋人あるの」

「いいえ」

ますます赧くなった。

「遊んだことは……」

「いいえ」

まるで訊問されているようで、鶴雄は不愉快だった。

六

「どうして、そんなことをお聞きになるんです」

鶴雄はむっとして云った。

「――そんなことどうだっていいじゃありませんか」

「いやどうだっていいっていう訳にはいかないよ」