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それでもわたしはいく

それでも私は行く

織田 作之助

「京都日日新聞」1946(昭和21)年4月25日~7月25日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 89,708 字 · 181 页

青空文庫

二

「おい、はいろう」

君勇をうながして、その映画館の中へふらふらとはいって行った。

二

小郷が望月三郎のアトラクションの掛っているその映画館へはいったのは、むろん嫉妬から出た自虐的な好奇心だった。

「真紀子の男はどんな奴だろう。どんな歌うたいだろう」

という好奇心で、その映画館へはいることは、むろん小郷にとっては辛いことだった。

しかし、嫉妬という人間の持っている情熱の中でもっとも激しいかも知れない、この激情は、ややもすれば――というよりむしろつねにこのような自虐へその人間を追いやるものなのだ。

小郷はこれまで苦しいという気持を知らなかった。

が、その彼が今、はじめて苦しい――いや、人間の感情の中で最も苦しい気持を味わねばならなかった。

思えば、小郷も気の毒な人間である。

おまけに、小郷にとって、ますます気の毒なことは――、

小郷が君勇と並んで座席に腰を掛けた時、まだアトラクションははじまっていず、見たくもない映画を見なければならなかったのである。

こんなみじめなことがまたとあろうか。

小郷は、ここ数年間映画というものを見たことがなかった。

若い男女のように見てたのしむという趣味はなかったし、だいいちそんな暇はなかった。