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それでもわたしはいく

それでも私は行く

織田 作之助

「京都日日新聞」1946(昭和21)年4月25日~7月25日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 89,708 字 · 181 页

青空文庫

四

「――今日は誰もいないのよ。ゆっくりしてらっしゃい」

用件もきかぬうちから、宮子は言った。

鶴雄はそんな宮子のみだらな姿勢から、ふと眼をそらしながら、

「ご主人はお留守ですか。じゃ、またお伺いすることにします」

と起ち上ろうとすると、

「帰さないわよ」

宮子はずばりと言った。

四

鶴雄は思わず宮子の顔を見た。

「帰さない――って一体どういう意味だろう……?」

宮子の眼は情欲的に輝いていた。

酒に酔っぱらった男が、理性を失って本能的に女を求めるように、ダンスのあとの悩ましいやるせなさを持て余していた宮子の淫蕩の血は、物狂おしく男を求めていた。

「とにかくお坐りになったら、どう……?」

宮子が言うと、鶴雄は、

「じゃとにかく坐りましょう」

と、苦笑しながら坐った。

「チョコレート召し上らない……?」

「いや結構です」

鶴雄はぶっ切ら棒な声を出した。甘いものに餓えているような顔で、

「やあ……これは珍しいですな」

などと、やに下って手を出すのは、醜態だと思ったのだ。

「ご用件は……? あたし代りに伺ってもいいでしょう」

「はあ、実は……」

山吹教授の紹介で来たのだと、鶴雄は紹介状をポケットから出して、宮子に渡した。