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それでもわたしはいく

それでも私は行く

織田 作之助

「京都日日新聞」1946(昭和21)年4月25日~7月25日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 89,708 字 · 181 页

青空文庫

九

弓子は言葉をつづけた。

「つまらない女でも、相手になさいますの?」

小郷は急に笑い出した。

その顔を見ていると、弓子はもう姉のことに触れる気はしなかった。

「この男は少しも悪いことをしたと思っていないのだわ! 言っても無駄だ!」

弓子は話題を変えることにした。

「ところで、今日お伺いしたのは、あたしの社へ、お宅のことで投書が参っておるのですが……」

「ほう……? 投書の内容は……?」

小郷はびくともしなかった。

「隠匿物資のことなんです。下鴨の小郷虎吉の家には、米三百俵、砂糖千斤隠匿されている。摘発しろと言うんです」

弓子は口から出任かせに言った。

「あはは……不平分子共が何を投書しよるか」

小郷はむしろ愉快そうな笑い声を立てた。

「手剛い!」

と、弓子はさすがに舌を巻いた。

「で、投書をのせる前に、一応事実の有無をきいておきたいと思いまして……」

弓子は何だか小郷に圧されそうな圧迫を感じながら、

「――事実ですか」

「事実じゃよ」

「じゃ、投書をのせても構いませんわね」

弓子は食って掛るように言った。

もう姉のことから来る私憤ではなかった。義憤に似た怒りであった。