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それでもわたしはいく
それでも私は行く
織田 作之助
「京都日日新聞」1946(昭和21)年4月25日~7月25日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 89,708 字 · 181 页
「およしなさいよ」
と、引きとめた。
そして、わざと小郷の肩に手を掛けながら、
「ねえ、もう一曲踊りましょうよ」
「うん」
小郷はしぶしぶうなずいた。
姦通しているらしい自分の妻のあとを追うて行って撲るという、はしたない真似は、自分の社会的地位を考えると、さすがに出来なかったのと、少しは弓子に未練があったからであろうか。
曲は、「キス・ミイ・アゲン」
弓子にとっては小郷と踊ることぐらい、いやなものはない。
手に触れられることさえたまらないのに、ぐっと抱き寄せられているのだ。
「この手で姉さんが……」
「この酒くさい息を姉さんに……」
そう思うと、小郷の横面をピシャリと撲りつけたい衝動が、むずむず湧いて来る筈だったがしかし、今は不思議に小郷と踊っていることが愉快でたまらなかった。
わざわざ下鴨へ行き、桔梗家を訪ね、そしてキャバレー歌舞伎までついて来た目的がはじめて達せられたという、小気味のよい快感に思わず生理的な不愉快さを忘れていたのだ。
さすがに、小郷は参っていた。
「もっと参らせてやるのだ。もっと苛めてやるのだ!」
弓子は踊りながら、
「あの男の人、誰だかご存知ですか」