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それでもわたしはいく

それでも私は行く

織田 作之助

「京都日日新聞」1946(昭和21)年4月25日~7月25日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 89,708 字 · 181 页

青空文庫

「知らん!」

「流行歌手の望月三郎!」

「…………」

「美男子ですわね」

「…………」

「随分女たらしだと言いますのよ」

「…………」

「木屋町の小野屋旅館ってご存知ですか」

「いや、知らん」

「お行きになったんじゃないんですか。今日の昼間――」

「わしが……?」

「ええ」

「いや行かん」

「そうですか。でも、おかしいですわね。あたし、今日、小野屋旅館に人を訪ねて行ったんですのよ。そしたら、小郷さんが御面会ですって、番頭の声が隣の部屋で聴えていましたわ」

「いや、行かん」

ターンしながら、小郷は、

「――隣の部屋って誰の部屋だ?」

「たしか望月の泊っている部屋だったかしら……? そういえば、女の方の声も聴えていましたわ」

わざと早口に弓子は言った。

効果はてきめんだった。小郷はまたステップを間違えた。

その時「キス・ミイ・アゲン」の曲が終った。

何思ったか、いきなり弓子は、

「ありがとう」

と、言うと、小郷からはなれて、ひらりと身をひるがえし、ホールを出て行った。

四

にやりと不気味な笑いを浮べて、キャバレー歌舞伎の玄関を出た途端、弓子は一人のみすぼらしい男がキャバレーの前にしょんぼり佇んでいるのを見た。