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それでもわたしはいく

それでも私は行く

織田 作之助

「京都日日新聞」1946(昭和21)年4月25日~7月25日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 89,708 字 · 181 页

青空文庫

九

「しかも、よりによって、おれの部屋の真上で……」

鶴雄は再びきっとして天井を睨んだ。

鶴雄の眼はふとラスコリニコフのような虚ろな、しかし、激しい狂暴性に燃えていた。

その時、

「坊ン、坊ン!」

女の声で呼ばれた。

振り向くと、君勇がすっくと立っていた。

「何だ……?」

「坊ン、坊ン!」

と、もう一度言って、君勇はよろめいた。酔っているのだろう。

「――おうち、何ともおへんか」

「何がだ……?」

「坊ン、坊ン!」

「うるさいな、坊ン坊ン、坊ン坊ン言うな」

鶴雄ははき出すように言った。

その時、君勇の手がいきなり伸びた。

鶴雄の頬がピシャリと音を立てた。

「阿呆!」

君勇は半泣きの声になっていた。

九

鶴雄は、なぜ撲られたのか、わけが判らなかった。

「何をするんだ!」

思わず君勇をにらみつけた。

「…………」

君勇はとろんとした眼で、鶴雄を見据えていたが、やがて、

「あんたッ!」

鋭く鶴雄を呼んで、

「――あんた何にもお知りやおへんのか。鈴子はんのこと……」

「…………」

「鈴子はん今晩どないなるか知っといやすか」

言いながら、君勇は自分が舞妓の時、はじめて旦那を取った晩のことを想い出して、しびれるような感傷に胸が温まり、声がうるんだ。