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それでもわたしはいく

それでも私は行く

織田 作之助

「京都日日新聞」1946(昭和21)年4月25日~7月25日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 89,708 字 · 181 页

青空文庫

四

宮子は鶴雄が女中にことづけた弓子への手紙を横取りして読んでしまったのである。

鶴雄は無論そんなことを知らなかった。

だから、まさか宮子が来ていようとは思いも掛けなかった。

鶴雄はちょっとすかされた想いで、ぽかんと突っ立っていた。

その姿を、その顔を、宮子は改めて

「素敵だわ」

と、惚れ惚れみながら、にこっと笑って、

「――昨日はどうも」

坐ったまま、頭を下げた。

「こちらこそ」

鶴雄も頭を下げて、はなれて坐るわけにもいかないので、傍へ行くと、

「昨日の方を待っていらっしゃるんでしょう」

宮子はずばりと言った。

「はア? ……? いや……。べつに……」

曖昧に返事していると、

「嘘おっしゃい」

「えっ……?」

さすがに鶴雄は驚いた。

「待ってらっしゃるんでしょう」

赧くなっている鶴雄の顔を見つめながら、宮子は再びきいた。きくというより、むしろ咎めるといった方がいいかも知れない。

「はア、まア……」

「でも、いらっしゃらないわよ」

「どうして……」

と、いう風に宮子を見ると、宮子は澄ました顔で、

「あたし、昨日の女の人からことづかって来ましたのよ。べにやで会うように御手紙いただいたけど、都合が悪くて、行けないから、ちぎり家の別館へ来てくれるように、ことづけてくれって……」